2009年7月1日水曜日

警察が犯人を決めるから、裁判員はいらない(3)


 現在、警察は全国指名手配してる被疑者(マスコミは「容疑者」と表記する)を「犯人」と断定し、ポスターやホームページで情報提供を呼びかけている(写真は警視庁ホームページより)。しかし、判例で「『犯人』とは有罪の言渡しを受けた者を指す」とされるとおり、被疑者は「犯人」ではない。

 この点について、警察庁に質問すると、「ポスターは広く国民にわかりやすい内容とすることを念頭に置いて作成しているものと承知しています」(広報室)という回答があった。

 とはいえ、警察が「犯人」として全国指名手配してる被疑者のなかには、「佐藤梢さん殺害事件」(後注)の小原勝幸氏のように、冤罪の可能性が高い者もいる。どう考えても、警察が被疑者を「犯人」扱いするのは越権行為であり、人権侵害だ。

 近年、最高裁判所は平木正洋・刑事局総括参事官(裁判官)が中心となり、マスコミに対し、いわゆる「犯人視報道」を見直すよう求めている。「裁判員制度」(後注)が導入され、「裁判員に予断や偏見を与えると、公正な裁判が行えない」というのである。

 しかし、これは額面どおり受け取れない。そもそも、日本の刑事裁判は「有罪率99・9%」といわれており、裁判員が「犯人視報道」の影響を受けても、どうということはない。もともと、「公正な裁判」など行われていないのだ。

 最高裁判所は裁判員制度導入を奇貨とし、報道を規制しようとしている。「裁判員に予断や偏見を与える」という意味では、「犯人視報道」のみならず「冤罪視報道」も許されない。つまり、最高裁判所は「マスコミは、裁判所が認定する事実だけ報道すればいい」と考えているわけである。

 警察が指名手配被疑者を「犯人」扱いしていることについて、最高裁判所に見解を尋ねると、「コメントする立場にはない」(広報課)という回答があった。マスコミの「『犯人視』報道」は問題にするが、警察の「『犯人』扱い」は問題にしない。最高裁判所の意図は明白だ。

 【佐藤梢さん殺害事件】2008年7月1日、岩手県下閉伊郡川井村で佐藤梢さん(当時17歳)の遺体が発見された。同月29日、警察は佐藤さんの知人の小原勝幸氏(当時28歳)を殺人容疑で全国指名手配。10月31日には、警察庁が小原氏の検挙に結びつく情報の提供者に対して、上限100万円の捜査特別報奨金を支払うことを公告した。一方、小原氏は恐喝と傷害、銃刀法違反事件の被害者として警察へ被害届を提出していた。その捜査が大詰めを迎えたとき、佐藤さんが殺害され、小原氏が行方不明となった。2009年6月19日、小原氏の家族らは日本弁護士連合会に対し、「小原勝幸を殺人事件の犯人として指名手配することを中止すること」などを警察へ働きかけるよう、人権救済の申し立てを行った。

 【裁判員制度】殺人など重大な犯罪で起訴された被告人の裁判を、裁判官3人と裁判員6人で審理する制度。裁判員は有権者からくじで選ばれる。有罪か無罪かは多数決で決定されるが、裁判官1人以上が賛成しないと、有罪にはできない。裁判員は刑の重さも判断する。2009年5月21日実施。

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