2009年6月5日金曜日

「菅家利和受刑者」から「菅家利和さん」へ

 昨日、「足利事件」の犯人として有罪判決が確定し、17年以上も監獄に入れられていた菅家利和氏(62歳)が釈放された。単行本『報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの』(以下、単行本)でも、津田哲也氏(ジャーナリスト)が足利事件に言及している。その部分で筆者は以下のような脚注をつけた。

 【足利事件】1990年5月12日、栃木県足利市で女児(4歳)が行方不明となり、翌日、遺体で発見された。1991年12月2日、栃木県警は、女児の衣服に付着していた精液とDNA型が一致したとして、元幼稚園バス運転手の菅家利和氏を殺人容疑などで逮捕する。公判で菅家氏は犯行を否認し、導入直後のDNA鑑定の不備も露呈するが、宇都宮地裁(久保真人裁判長)の無期懲役判決(1993年7月7日)が、東京高裁判決(1996年5月9日、高木俊夫裁判長)、最高裁第2小法廷決定(2000年7月17日、亀山継夫裁判長)でも支持された。菅家氏は再審請求を提起。2008年2月13日、宇都宮地裁(池本寿美子裁判長)は棄却するが、同年12月24日、東京高裁(田中康郎裁判長)は再度、DNA鑑定を行うことを決定した。

 単行本が発売されたのは2009年3月10日。その時点で筆者は菅家氏が無罪であると確信していたので、あえて「菅家利和容疑者」「菅家利和被告」「菅家利和受刑者」などの表記を使わず、「菅家利和氏」とした。

 2009年5月8日、東京高裁(矢村宏裁判長)は再度のDNA鑑定の結果を検察側と弁護側へ伝えた。女児の衣服に付着していた精液のDNA型は菅家氏のものと一致しないという内容だった。これで菅家氏の再審無罪が確定的となり、昨日、検察庁は同氏を釈放した。

 とたんにマスコミは「菅家利和受刑者」ではなく「菅家利和さん」と言いはじめた。「これまで『菅家利和受刑者』と表記してきましたが、刑の執行停止や釈放などを受け、今後は『菅家利和さん』と改めます」(朝日新聞)、「足利事件で菅家利和受刑者が再審無罪となることがほぼ確実となりましたので、今後は『菅家利和さん』の呼称を併用します」(産経新聞)などと「おことわり」を掲載する新聞もある。従前、警察や検察、裁判所と一緒になり、菅家氏を犯人扱いしてきたことは忘れ去られている。

 そういうマスコミを寺西和史裁判官は単行本で痛烈に批判している。

 「今の犯罪報道は逮捕を基準に行われているからおかしいんです。実名や顔写真を公表するか否かなど、報道機関が判断することなく、すべて“お上”の判断にゆだねられている。実名や顔写真を出す免罪符として警察を使っている感じがして、違和感がありますね。こんなことで、ジャーナリストを自称できるのかな。どこかの記者にそう言ったら、『自分のことをジャーナリストと思っていませんから』と居直られたことがありましたけど(笑)」

 映画『ポチの告白』では、警察の腐敗と同様、マスコミの腐敗もいやというほど描写されている。それについて、マスコミ記者たちから、「自分の職場を見ているようだ」と嘆息されることはあっても、「事実と違う」と文句を言われたことはない。

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