2009年7月20日月曜日

佐々淳行氏が会長を務める日本刀剣界の混乱

 2000年に毎日新聞のスクープで明るみになった、当時の著名な考古学研究家による旧石器時代遺跡捏造事件。日本の前期・中期旧石器時代の遺跡だと発掘されていたものが、実は、その研究家によって事前に埋められていたことが発覚。これにより、日本の歴史教科書における旧石器時代に関する記述は大幅な訂正・抹消を余儀なくされた。それに匹敵する歴史の改ざんが、もし日本古来の美術工芸品である日本刀をめぐる世界で起きていたとしたら由々しき事態だ。

 現在、日本刀の保存、管理、補修、公開および歴史的な格付けをする唯一の公的機関は「財団法人 日本美術刀剣保存協会」である。設立されたのは第二次世界大戦後の1948年で、当時の日本では、歴史的に価値のある名刀の多くが、GHQによる没収や、戦後の混乱の中で散逸していた。そういった状況から日本刀を保護し後世に伝えるため、当時の文部大臣の認可によって設立されたのが同協会。現在、文化庁と文部科学省が監督官庁で、その会長を2006年8月から務めているのが元警察官僚で初代・内閣安全保障室長などを歴任した佐々淳行氏だ。

 同協会が現在、日本刀を格付けする際に用いている等級は、高い順に、「特別重要」「重要」「特別保存」「保存」。等級が一つ違えば、価格が一ケタ変わるといわれ、「特別保存」で数百万円の刀が、「重要」認定を受ければ数千万円に跳ね上がることも珍しくない。

 同協会は審査の厳正を期すため、2001年に『業務の改善措置結果について(報告)』という文書を文化庁に提出、その中には「審査の透明性を確保する上で、御指摘の通り役員、職員ならびにその親族と審査員を含め、それぞれの立場を考え、内部規律として審査申請ができないようにする~」と明記(※一部抜粋)されていた。しかも、その文書は、同協会の当時の専務理事が協会の公印を捺して提出したものである。にもかかわらず、同協会の刀剣審査にはその後も、協会の理事、職員やその親族、審査員などの内部者が申請することが恒常的に続いていた。それに関し、協会と付き合いの深い外部者からは、「身内に有利な不正審査が行われているのではないか」という疑念の声が多数上がっている。

 同協会は、「文化財保護法」に基づき毎年国から多額の補助金を受給し、すなわち税金を使っている以上、その運営については透明性が求められ、不正が行われているという「疑惑」を外部から持たれるような運営は直ちに是正しなければならない。にもかかわらず、その是正がいまだ行われていないのが現状である。

 そのような中、本稿の筆者の手元にこのほど、日本刀文化の保護・振興を目的に昨年12月に設立された「一般財団法人 日本刀文化振興協会」(以下、刀文協)の入会案内が届いた。案内書に書かれている設立趣意書には、「日本刀の良き伝統を継承しつつ、併せて時代に適応する日本刀の新しい価値を創造し、広く世界に向けて訴求し~」(※一部抜粋)と謳われている。設立メンバーを見ると、会長、相談役、顧問、評議員、理事・監事など約40名は、いずれも刀剣界の一人者と言っても差し支えない顔ぶれ。刀文協関係者に話を聞くと、「新団体は日本美術刀剣保存協会と喧嘩するために設立したわけではない。しかし、同協会の関係者や、刀剣愛好家の中には、同協会に愛想を尽かしている人が多いのも事実。今回の新団体の設立には、そういった背景もある。同協会は是正すべき点は是正すべきだ」とのこと。

 日本美術刀剣保存協会の会長を務める佐々淳行氏といえば、東大安田講堂事件、連合赤軍あさま山荘事件などで警察側の指揮を執った人物として知られる。その同氏が身を置く公的機関が現在、外部からの批判にさらされている時、同氏がこれまで培ってきた「危機管理能力」が、組織の改善に発揮されているとは言い難い。むしろ、外部からの批判に対し、自らの組織を防衛するために汲々としている感じさえ受ける。

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