2009年6月15日月曜日

他人事ではない自白の強要(2)

 一昨日、「知り合いが警察で拷問的な取り調べを受け、自白を強要された」という電話を2件受けた。昨日、そのうちの1件の関係者らと面談した。刑事裁判が進行中であり、「一刻も早く話を聞いてもらいたい」とのことで、関東近県からクルマで上京してきた。

 その事件では複数人が逮捕、勾留されており、警察が見立てたストーリーに沿う自白調書にサインするまで、肉体的、精神的に追い詰められたという。若い女性被疑者に対し、警察官がセクハラをしたとも訴えていた。

 刑事裁判がはじまり、被告人らは法廷で「警察官に自白を強要された」と証言するが、裁判所はまったく取り合わない。「足利事件」(後注)を見るまでもなく、日本の刑事裁判では、調書に記載されていることこそ「事実」であり、それを翻すような証言が法廷で被告人や証人の口から飛び出しても、裁判所は一顧だにしない。

 警察で拷問的な取り調べを受けると、目の前の苦痛から逃れるため、つい自白調書にサインしてしまう。警察官が被疑者の心理を見越し、「無実なら裁判所で、そう主張すればいい。中立公正な裁判官が判断してくれる。ここで頑張るのは意味がない」などと誘導することもある。

 しかし、実情は、寺西和史裁判官が単行本『報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの』で述べているとおりだ。

 「裁判官が警察や検察の意向に反する判断をすることは、私が知る限りほとんどありません。(中略)人権を守る役割を果たしているというより、警察、検察の果たすべき役割を一体となって果たしているという印象です」

 裁判官が中立公正だという幻想を国民が抱いていることも、冤罪が発生しやすい素地である。

 【足利事件】1990年5月12日、栃木県足利市で女児(4歳)が行方不明となり、翌日、遺体で発見された。1991年12月2日、栃木県警は、女児の衣服に付着していた精液とDNA型が一致したとして、元幼稚園バス運転手の菅家利和氏を殺人容疑などで逮捕する。公判で菅家氏は犯行を否認し、導入直後のDNA鑑定の不備も露呈するが、宇都宮地裁(久保真人裁判長)の無期懲役判決(1993年7月7日)が、東京高裁判決(1996年5月9日、高木俊夫裁判長)、最高裁第2小法廷決定(2000年7月17日、亀山継夫裁判長)でも支持された。菅家氏は再審請求を提起。2008年2月13日、宇都宮地裁(池本寿美子裁判長)は棄却するが、同年12月24日、東京高裁(田中康郎裁判長)は再度、DNA鑑定を行うことを決定した。2009年5月8日、東京高裁(矢村宏裁判長)は、再度のDNA鑑定の結果、女児の衣服に付着していた精液のDNA型は菅家氏のものと一致しないことを検察側と弁護側へ伝えた。同年6月4日、検察庁は菅家氏を釈放した。

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