2009年6月12日金曜日

弁護士と正義


 昨日発売の『週刊新潮』(2009年6月18日号・写真)に、「『冤罪のヒーロー』菅家さんを救い出した『正義の弁護士』に『懲戒請求』!!」というタイトルの記事が掲載されている。リードは以下のとおりだ。

 「DNA鑑定を根拠に無期懲役が確定していた菅家利和さん(62)が釈放されたのは、手弁当で支えた佐藤博史弁護士(60)らのお陰である。が、『正義の弁護士』は同時に、詐欺紛いと告発された会社の代理人としても『活躍』し、複数の懲戒請求を申し立てられていた」

 ここでいう「詐欺紛いと告発された会社」は、評論家の増田俊男氏が経営する投資顧問会社「サンラ・ワールド」(以下、サンラ)。増田氏は高利をうたい、不特定多数からカネを集めたとして、出資法違反などの疑いで、警視庁に告発されている。

 この問題をいち早く報道してきたのがジャーナリストの津田哲也氏。おかげで、津田氏は増田氏から名誉毀損訴訟2件を起こされている。どちらも増田氏の代理人は佐藤弁護士だ。

 津田氏は、単行本『報道されない警察とマスコミの腐敗 映画『ポチの告白』が暴いたもの』で、佐藤弁護士について、こう疑問を投げかけている。

 「サンラの代理人・佐藤博史弁護士は2007年だけで同社から約1億円の報酬を得ています。反面、佐藤弁護士は『横浜事件』(後注)や『足利事件』(同)という人権侵害事件に取り組んでいます。この矛盾がどこから来るのか不思議でたまりません」

 『週刊新潮』記事も、同様の疑問で締めくくられている。

 「冤罪事件を手柄に正義を語る一方で、詐欺紛いの会社の被害者に理不尽を強い、自分に都合が悪い取材には、答えもせず相手を罵倒する。『正義の弁護士』の意外な一面は、善悪の二元論では測れない人間存在の奥深さを教えてくれる……」

 実際、ジャーナリストをしていると、実績や人望がある弁護士が、スジが悪い企業や個人の理不尽な主張を代弁しているのを見かける。高額の報酬を得るためとしか思えないが、当人から「(企業や個人が)世間にバッシングされ、権利が侵害されている」と“正義”を説かれたりもする。そう信じ込まないと、自分自身の言動の矛盾に耐えられないのかもしれない。

 【横浜事件】太平洋戦争中、神奈川県警特別高等課が出版社社員ら数十名を治安維持法違反で逮捕し、拷問を加えた言論弾圧事件。治安維持法違反で有罪とされた元被告人やその遺族が再審請求を行い、一部が認められているが、裁判所は「無罪」ではなく「免訴」(治安維持法が廃止され、公訴権が消滅)の判決を言い渡し、お茶を濁している。

 【足利事件】1990年5月12日、栃木県足利市で女児(4歳)が行方不明となり、翌日、遺体で発見された。1991年12月2日、栃木県警は、女児の衣服に付着していた精液とDNA型が一致したとして、元幼稚園バス運転手の菅家利和氏を殺人容疑などで逮捕する。公判で菅家氏は犯行を否認し、導入直後のDNA鑑定の不備も露呈するが、宇都宮地裁(久保真人裁判長)の無期懲役判決(1993年7月7日)が、東京高裁判決(1996年5月9日、高木俊夫裁判長)、最高裁第2小法廷決定(2000年7月17日、亀山継夫裁判長)でも支持された。菅家氏は再審請求を提起。2008年2月13日、宇都宮地裁(池本寿美子裁判長)は棄却するが、同年12月24日、東京高裁(田中康郎裁判長)は再度、DNA鑑定を行うことを決定した。2009年5月8日、東京高裁(矢村宏裁判長)は、再度のDNA鑑定の結果、女児の衣服に付着していた精液のDNA型は菅家氏のものと一致しないことを検察側と弁護側へ伝えた。同年6月4日、検察庁は菅家氏を釈放した。

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